こんにちは。フォニムピアノ講師の榎政則です。

22歳で作曲・音楽理論を専門としてフランスに渡り、気付いたらピアニストになっていましたが、フランスではびっくりするような出来事がいくつも起こりました。その中で特に印象的だったピアノに関わるエピソードを紹介します。今回は「教会での演奏会で渡されたもの」編です。

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パリの教会でのリサイタル


フランスには多くの教会があります。

どんなに小さな村にもかならず教会はありますし、都市に行けば数えきれないほどの教会があります。


教会は、礼拝だけにとどまらず、音楽会や勉強会の開催など、文化施設としての役割も持っています。

そんなパリの教会でのヴァイオリンとピアノのリサイタルを依頼されたことがあります。



街中にあるありふれた教会で、非常に古いピアノが置いてありました。おそらく100年ほど前のピアノでしょう。鍵盤は通常の88鍵よりはるかに少なく、プログラムのとある曲は音を変えなければ演奏できないほどでした。


それはそうと、そのピアノでリハーサルを始めると、調律が非常に狂っていたのです。大体の鍵盤は一応ドレミから大きく外れることは無かったのですが、曲の決めどころの高いソの音がひどい音でした。

まだ本番までに3時間ほど時間があるので、ピアノの調律をなんとかお願いできないか、と伝えてみました。


「調律?ああ、それなら少し待っていてくれ!すぐに用意する!」

とお兄さんが元気よく教会の奥へ消えていきます。まさかこのお兄さんが調律をしてくれるのでしょうか。

本番直前にまさかの展開に

リハーサルをしながら待っていると、そのお兄さんが私にピアノの調律セットを渡してくれました。調律セットといっても、古びたチューニングキー(ねじを回す道具)と、消音フェルト2つの三点セットです。



途方にくれる私に対し、お兄さんは得意顔です。

ピアノの調律は基本的にはピアニストは行いません。ピアノに張られている3本の弦のうち、2本を消音して、1本を他の音に合わせ、さらに1本ずつ調整する・・・という知識はあっても、実際に調律したことなどありません。本番まで2時間半、少なくとも決めどころのソだけは直してやろう、と思いました。

必死に取り掛かるものの…


まず、試しに、ソの隣のラ♭の音(これも酷くズレていました)を調整しようと試みます。この音なら、酷いことになってもそこまで音楽に影響はないはずです。(そんなことはなく、いざ演奏するとかなり使う音でした)まず、すぐに直面した問題は、どの弦がズレているかわからないことでした。そもそも他の音に合わせようにも、他の音も狂っているのですからどうしようも無いのですが、そうでなくても、3本ある弦が現状どのように悪いのか、全然わかりません。


まず、一本弦をミュートしてみました。二本の弦がなりますが、これも著しくズレています。そこで、試しに一本の弦のねじをまわしてみました。

ほんの少し(角度にして2°くらい?)回しただけで、音程は極端に変わります。ここで冷や汗が出てきました。もしかしたら、もう戻せないかもしれない・・・なんとか、その二本の弦を合わせたころには、調律を開始してから40分が経っていました。



そして、消音していた弦をふくめてならすと、びわんびわんと変な音がなります。

では、この弦を調整していこうと思って、ねじを回すこと30分、全く良い位置が見つかりません。常に変な音が鳴ってしまうのです。

もうどの弦がズレているのかも分からなくなってきて、おそらく調律を開始する前よりも酷い音になっていたでしょう。

演奏会まであと1時間、この音だけでも直さねば、と思って、試行錯誤して、なんとかそれなりの音にすることができました。


調律師は一音を調整するのに1分程度でできるそうです。

この100倍の時間を掛けても全く良い音にできないのを肌で感じて、調律師の偉大さを改めて知ることになりました。

なお、演奏会はそれなりにうまくいきました。

エピソードは続編に続きます。