フォニムのピアノ講座では、たびたび「ツー・ファイブ」というコード進行が登場します。この進行は、どんなジャンルでも多くの曲に使われていて、最も基本的な進行です。成り立ちからお洒落な使い方まで、「ツー・ファイブ」の奥深さを知りましょう。
「和音の度数」が名前の由来
「ツー・ファイブ」という名前の由来を少しだけ理屈を学んで知りましょう。
クラシックや、ジャズや、ポップスのコード理論(和声理論)のほとんどは、三度堆積という形で和音を作ります。
この音符のように、根音(ルート)という最も低い音の上に、3度の間隔で和音を積み上げていきます。まずはこれを抑えておきましょう。
そして、長調や、短調といった、調性音楽は、基本的に7つの音(ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ)から成っています。
これらの音を根音として3度堆積で和音を作り、主音から順番に、I度、II度、III度、とローマ数字で名前を付けます。これを度数といいます。
3つの音が積み重なった形は次のようになります。
4つの音が積み重なると、次のようになります。
また、短調だと次のようになります。♮が()に入っている場合は♮が付いたり付かなかったりする音です。
今回の記事では扱いやすい長調の「ツー・ファイブ」を見ていくことにします。
「ツー・ファイブ」は、この和音が、II→V→Iと進むことから名付けられました。
最後のIまで含めて「ツー・ファイブ・ワン」と呼ぶ場合もあります。
なお、ローマ数字の度数の考え方は、音がダブっていたり、オクターヴの違いがあっても、同じ種類の和音として見なします。音が足りない場合や、この中に含まれていない音などがあっても、同じ種類として見なされることがあり、とても柔軟です。
色々な「ツー・ファイブ」を見ていこう
ピアノでコードを弾くパターンとしては次のようなものがあります。
・左手でコードを弾きながら、右手で旋律を弾く。
・左手でベースを弾きながら、右手でコードを弾く。
・左手の強拍でベースを弾き、弱拍でコードを弾きながら、右手で旋律を弾く。
上級者になればもっと色々なパターンがありますが、基本的にはコードは左手で弾くことになります。そこで、左手で綺麗に「ツー・ファイブ」を弾くことをまず目標にしましょう。
最も基本的な形「3度の塊で移動」
まずはこの形を覚えましょう。指使いはすべて5321となります。
このときのポイントは、II→Vのときに、53の指を動かさないことと、V→Iのときに、12の指を動かさないことです。上半分だけ動いたあと、下半分だけ動く、という捉え方をすると、弾きやすくなります。
原則「第三音と第七音は崩さない」
三度堆積で和音を作ったとき、下から2番めの音を第三音、4番めの音を第七音と呼び、コードの性格を決定付ける大事な音です。この音を取り出してみましょう。
IIからVに変化する音は、ド→シと半音になっており、VからIに変化する音は、ファ→ミとこれも半音になっています。この半音の動きが和音に方向性をもたらす大事な音です。sus4などの一部の例外はありますが、ツー・ファイブのときはこの第三音と第七音を崩さないようにコードを作るのがポイントです。
ちょっと翳りを持たせて「IIのマイナー化」
IIの第五音(ラ)に♭を付けるだけで、すこし翳りのある響きとなります。このDm7b5は「ハーフディミニッシュ」という和音です。不安定な和音ですが、そのおかげでどんな和音からも自然に接続できるため、この形のツー・ファイブは転調によく使われます。ぜひ手になじませて、どんな調でも弾けるように練習してみてください。
より複雑な響きに「9の和音の連結」
基本の形から、指の形をそのままに3度上に上げると9の和音となります。根音(ルート)が無くなってしまい、独特の浮遊感が生まれています。もちろん、ベースに根音を追加してもうまく響きます。かなり複雑な響きになりますので、作曲においては、全体のバランスを考えて用いることが大事です。
さらにお洒落に「Vのマイナー化」
さきほどのはIIの和音でラの音に♭を付けました。V9の和音にもラが出てきますので、こちらの方に♭を付けてみましょう。そうすると、II→V→Iにラ→ラ♭→ソという流れができて、なめらかさが生まれます。このときのG7(b9)というコードはFdimと書くこともあり、ディミニッシュコードと呼ばれます。
心地よい不協和音「V13の和音」
ディミニッシュコードはそれぞれの音の間隔が半音3つ分という規則的な成り立ちをしているため、独特な響きではありますが、2度や7度といったぶつかりが無いため、不協和感が少なくなってしまいました。たとえば、Dm9はファとミが7度でぶつかっていますし、Cmaj9もミとレが7度でぶつかっています。そこで、G7(b9)のレをミに変えることで、ファとミの7度のぶつかりをつくることができます。このようにして響きの複雑さのバランスを取ることも大切です。
別の世界を見る「裏コード」
Vにはファとシが入っていれば良いという原則を述べましたが、このシをド♭と読み替えることで、G7をDb7に代理させることができます。これを通称「裏コード」と呼びます。
レ→レ♭→ド
ラ→ラ♭→ソ
という二つの半音の流れがあり、滑らかに和音を繋ぐことができます。
それを複雑に「裏コードの9の和音」
これは、「V13の和音」で紹介したミ♮がミ♭になっているだけ、と考えることができます。Vと裏コードは本当に似通っていることがわかりますね。直前の「裏コード」に比べると、すこし柔らかい響きになったように聞こえます。
原則を破る「sus4コード」
原則としてお伝えしてきた、ファド→ファシ→ミシの形を用いない形のツー・ファイブもあり得ます。
Vのシをドに”吊り上げる”ことで、sus4(suspended 4th「吊り上げられた第4音」)というコードになります。これは「サスフォー」と呼びます。」
sus4は独特の爽やかさを持つ和音で、G7の安直な響きを避けるためによく使われます。
また、次のようにIIも、ファをソに吊り上げることでsus4にすることもできます。
このようなsus4コードは、7や9を付け加えることで、分数コード(オンコードともいう。ベースが根音でないときに使う)のようにみなすことができます。たとえば、D9(sus4)というコードは、Am7/Dというコードと実質的に同じコードです。sus4コードと同じと見なすことができる分数コードが何であるかを把握することで、よりコードの捉え方が広がります。
さらにお洒落に「sus4のマイナー化」
G7(sus4)は、F/Gという分数コードとして見なすことができます。このFをFmとすることで、少し翳りのあるsus4を作ることができます。変化している音はラで、これは実質的に「Vのマイナー化」と同じことをしています。
クラシック音楽のツー・ファイブ
クラシック音楽にもツー・ファイブの形がよく登場します。特に曲の終わりや区切りなどで、完全終止と呼ばれる特別なツー・ファイブの形が現れます。この音を聞くだけで「クラシック音楽だなあ」と感じさせるだけの力があるため、意図的にクラシック音楽を想起させたい場合を除いて、このような形は使わないほうがよいでしょう。
いろいろなツー・ファイブを知って、音楽の幅を広げよう
始めに紹介した通り、ツー・ファイブは最も基本的なコード進行です。それだけ数多くの派生があり、ここで紹介できたのは全体の1割にも満たないでしょう。基本的なコードだけに、そのまま演奏すると安直な響きになることもありますが、様々な工夫によってどんなスタイルにも合わせていくことができるようになります。
また、どんな調でもツー・ファイブを演奏できるようにすると、どんな曲が出てきても慌てることはありませんし、転調をするときにも便利です。
ぜひ、ゆっくりと練習してみてください。