ジャズを聴いていると何とも言えない心地よい複雑さを持った響きの音が全体を支配しています。そんな魔法のような音はどのように成り立っているのでしょうか。その一つはブルー・ノートを理解することで解き明かされます。ピアノで実際に演奏することも考えて、ブルー・ノートを紐といていきましょう。
ブルー・ノート
少しだけ歴史をたどってみましょう。ジャズはどこから来たのでしょうか?これはブルースから来たと言われています。ブルースとは「Blue(青)」が語源であり、「憂鬱」といった意味を持ちます。
ブルースは12小節の決まったコードで何度も同じフレーズを繰り返しながら、世の中の愚痴を語ったり、恋を歌ったり、あるいはもっと荒んだ内容だったりをそれぞれの人が歌っていく、という形式です。中には明るい内容のブルースもありますが、雰囲気としては労働者が酒場で集まってそれぞれの苦労の愚痴を言いながら慰め合う音楽でした。このブルースの源流をさらにたどると、黒人奴隷達が強制労働させられていたときの、その労働の苦しさを紛らわすための歌であるフィールド・ハラー(Field holler、「野外の叫び」の意味)に行き付きます。
この歌は、リズムを持たず、また、西洋音楽の半音階では表しきれない音を使っており、独特の哀愁をもっていました。この音こそが「ブルー・ノート」です。
ブルー・ノートは長音階の「ドレミファソラシド」の音の中で、ミ(第III音)ソ(第
V音)シ(第VII音)の少し低い音となります。
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この音は狙って出そうと思っても難しいのですが、疲れている時に歌うと自然と音程が下がりこのような音になります。哀愁・憂鬱・疲労といった、厳しく理不尽な社会に向き合って出てきた音がブルー・ノートなのです。
ブルースのコード
このブルー・ノートを積極的に使った音楽がブルースです。ブルースは前項で12小節の決まったコードを使うと述べましたが、実際にそのコードを見てみましょう。なお、このコードは最もシンプルな形で、現代ではもう少し複雑なコードを使うのが普通です。
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Cメジャーではありますが、C7の中にはB♭、F7の中にはE♭といった音が登場しており、これだけでもブルー・ノートの響きを感じ取ることができます。
伝説的なブルース奏者ロバート・ジョンソンが1937年に作った「スイート・ホーム・シカゴ」です。ブルースの王道を行く物悲しくも力強い音楽です。
ブルー・ノートを弾いてみよう
実際にブルー・ノートをピアノで弾いてみましょう。ピアノでは、半音階の中の音のみ演奏可能なので、「少し低い音」は厳密には弾くことができません。しかし、そもそもブルー・ノートは厳密に高さが決まっている音ではないのですから、ピアノでもその雰囲気を作り出しさえすれば立派なブルー・ノートになります。
ピアノではブルー・ノートは主に次の3通りの使い方ができます。
①ブルー・ノートを弾いたのち半音下がる旋律を作る
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一般的に♭の付いた音は下行指向が強く、♯の付いた音は上行指向が強くなります。ブルーノートは♭系の音であるため、次に下がろうという力が強く働きます。レを経過せずに、ドまで下がることもあります。
②ブルー・ノートとメジャースケールの音をほぼ同時に弾く
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ブルー・ノートはメジャースケールから外れた音となりますが、メジャースケールの音と同時に弾くことで、ブルー・ノートの独特の響きを再現します。正確に同時に弾いてもいいですが、わずかにブルー・ノートの方を先に弾くと装飾音のようになって明るめの響きになります。はっきりと分かるくらいブルー・ノートを先に弾くと次の③となります。
③ブルー・ノートを弾いたのち半音上がる旋律を作る
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これは特に第V音のブルーノートで使われます。ただし、ブルー・ノートはやはり下行することで独特の哀愁を帯びた響きとなるため、上行した形はどちらかというと明るくモダンな響きとなります。
よりモダンなブルー・ノートの使い方
ここまで、ブルー・ノートの成り立ちと使い方を見てきました。ブルー・ノートは半音階で割り切れる音ではなく、人によっても微妙な音の揺れがあり、それが哀愁の帯びた独特の響きを作り出していました。しかし、いざ人々に受け入れられ始めると、様々な使用方法が登場します。本来のブルー・ノートからかけ離れた使用方法も生まれ、ジャズの響きをより複雑に豊かなものにしていきます。
ペンタトニックスケール
ブルー・ノートの理論で良く使われる、ペンタトニック応用したブルー・ノートの使い方を見ていきましょう。
突然ですが、世界の音楽の音階は5音音階と7音音階が多数を占めています。5音音階のことを「ペンタトニック・スケール」、(一部の)7音音階のことを「ダイアトニック・スケール」といいます。ペンタとダイアはそれぞれギリシャ語での「5」と「2」を表す言葉です。なぜ「2」を表す言葉が7音音階を表すようになったのかは今回の記事とは関係ないのでひとまず置いておきましょう。今回は5音音階である「ペンタトニック・スケール」をみていきます。
ヨナ抜き音階
ドレミファソラシドから、四番目の音と七番目の音を抜いた音階を「ヨナ(四七)抜き音階」といいます。これは世界中に見られる音階です。
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この音階はジャズでも良く使われます。さて、この音階をラから始めると、マイナーに近いペンタトニック・スケールを作ることができます。
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これはマイナー・スケールから二番目の音と六番目の音を抜いた音階としてみることもできるので「ニロ抜き音階」と呼ばれることもあります。これを移調して、Cから始めてみましょう。(Cから始まるマイナースケールの第II音と第VI音を抜いたものとして考えても構いません)
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ここに登場するE♭とB♭はブルー・ノートと見なすことができます。
これをC7・G7・F7上で演奏することにより、かなり進歩した形のブルー・ノートの響きを聴くことができます。
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メジャーのようなコードの上でマイナーのようなメロディとなり、強烈な響きではありますが、まさにブルースといった音使いになります。
コード中に使うブルー・ノート
コード(和音)を弾くときにブルー・ノートを紛れ込ませることにより、より複雑なサウンドを作り出すことができます。これからいくつかの例を紹介しますが、ぜひご自身で弾いて確かめてみてください。
減8度を積極的に使う
たとえば、C7とE♭というブルー・ノートを同時に弾けば、EとE♭という減8度が現れます。
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まずはこの減8度の響きを知り、聴いて、酔いしれましょう。コードの魅力に溺れることが、コードを使いこなす第一歩です。なお、このコードは、E♭をD♯と読み替えて、C7(♯9)と書く場合もあります。ベースが他にいる場合や、必要無い場合は、次のようなヴォイシング(音の割り当て)をすると綺麗です。
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V上のブルー・ノートは多彩
G7上に、E♭やB♭といったブルーノートを使うと、なんともいえない妖艶な響きを得ることができます。
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さあ、このG7の響きを知り、聴いて、酔いしれましょう。このコードの面白いところは、様々な解釈ができることです。たとえば、G7+E♭△のように捉えることができます(△はMaj7のこと)。そう考えると、たとえば、次のようなサウンドを作り出すことができます。
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もしくは、G7+Bbsus4のように捉えることもできます。
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ふたつのコードの組み合わせと捉えることができると、旋律のアイディアが広がり、よりモダンな響きを作ることができるようになります。G7というコードがあったら、E♭メジャーの旋律を弾いても良い、というのはなかなか衝撃的ですが、それこそがブルー・ノートの魅力といえるでしょう。
それでも原点に立ち返ってブルー・ノートを聴く
このように新しい響きを追求するのはとても楽しいことですし、自分の音楽の幅を一気に広げてくれます。一通り様々なブルー・ノートを楽しんだら、またこの音を作り出した黒人労働者達に敬意を表して、原点のブルー・ノートを聴いてみましょう。本来の哀愁・憂鬱がありつつも、力強い生命力を持ったブルー・ノートの表現をピアノで模索することもまた大切な試みとなるでしょう。