ピアニストの演奏を聞いたことはありますか?コンサートホールでなくて、テレビやYouTubeでも構いません。

ピアノという楽器から魔法のように感動的な音楽が生まれてきていますよね。その優美な姿に憧れて、ピアノを始めたいと思った人も多いかもしれません。

しかし、どのような魔法がかかったら、ピアノからあのような音色が流れてくるのでしょうか?

楽器の問題?

「そりゃあ、楽器の問題でしょう!数千万円のグランドピアノと、2万円の電子ピアノじゃ、音が違って当然!」という声も聞こえてきそうですね。

確かに、大ホールでよく使用されている、フル・コンサート・グランドピアノの最高峰、スタインウェイ社のDモデルは、2,000万円を超える超高級品です。

このレベルのピアノが置かれるコンサートホールは、数百人から数千人が入る大ホールであることは間違いないでしょう。

そんな環境が整ったら、最高の音になることは間違いないですね。

…と思って、ピアノ初心者の方がコンサートホールでフル・コンサート・グランドピアノを弾いてみたら、ちょっと思っていたのとは違うことになるかもしれません。

なんだか自分の音が遠くから聞こえてくるようで、何を弾いているかよくわからなくなってしまった、という方が多いのです。

そして、ピアニストに2万円の電子ピアノを弾いてもらったら・・・、

「できればグランドピアノで弾きたいけどね」などと一応言われるかもしれませんが、コンサートホールで聞いたあの魔法の音色は健在のはずです。

もちろん、コンサートホールでのピアノほどの感動は得られないかもしれませんが、あきらかにピアノ初心者の音色とは違うのです。

ますます謎は深まるばかりですね。

グランドピアノの中では何がおきているの?

グランドピアノは蓋を開けるとハンマーと弦がむき出しになります。

鍵盤を押すと、ハンマーがぴょこっと動いて、3本の弦を一度に叩いているところを見ることができます。

もう一つ注目する点は、ハンマーが動くと同時に、弦の振動を止めるフェルト(ダンパーといいます)が浮いて、弦を開放しているところです。

鍵盤から指を離すと、このフェルトが落ちてきて、弦の振動を止め、音が止まります。

単純な作りのようですが、これを実現するのはかなり複雑な機構が必要です。

現代のピアノは、1つの音あたり80個ほどの部品を使って、鍵盤を弾くだけで、自在に素早くハンマーとダンパーの動きを実現することができます。

過去の職人たちの創意工夫が詰まった複雑な機械なのです。

・・・しかし、よく考えると、ピアノは、ハンマーで弦を叩いて、ダンパーで弦の振動を止める、これだけのことしかしていません。

ギターは、ピックや指など、何で弦を弾くかによって音色を変えることができます。

もちろん、弦を弾く位置を変えても、全く違う音色にすることができます。

フルートは、息の流れを鋭くしてアタックを付けたり、揺らしてビブラートを掛けることができます。

しかしピアノはただハンマーで弦の同じ位置を叩いているだけ。

強さは変えることは出来ても、それ以外なにも変えることができません。

多くの方に怒られてしまいそうですが、怖がらずに断言してしましましょう。

ピアノで1音を弾くだけなら

弾き始めるときの強さと、音の止め方の2つしかコントロールできない

もっと単純化してしまえば、ピアノは音量と音の長さしかコントロールできないのです。

そんな不自由な・・・

電子ピアノの中では何が起きているの?

ついでに、電子ピアノの場合の内部では何が起きているのか見てみましょう。

MIDI送信機のついている電子ピアノをパソコンに接続して、送られてくる数値を覗いてみます。

真ん中のドを強めに弾くと・・・

[60,122]

こんな2つの整数が送られてきます。

これは、

「音の高さは60(=真ん中のド)で、強さは122で(0が無音、127が最大)鳴らしてね」

ということを表しています。

鍵盤を離すと、

[60,0]

というメッセージが送られてきます。

これは、

「音の高さ60(=真ん中のド)の強さを0(=無音)にしてね」

ということを表しています。

以上、おしまいです。

たった2つの数値が、2回送られてきたら音は決まってしまいます。

つまり、音の高ささえ決まってしまえば、

弾き始めるときの強さと、音の止め方の2つしかコントロールできない!

ということになります。なんて不自由なんでしょう。

これは、さっきもどこかで見たような・・・?

強弱と音の切り方で何ができるのか?

結局ピアノの根本は、電子ピアノにせよ、アコースティックピアノにせよ、強弱と音の切り方なのです。

「いやいや、ペダルも大事でしょう?」

たしかにそうかもしれませんが、試しにピアニストにペダルを使わないで演奏してもらってみたらどうでしょう。敵わない・・・と思うはずです。

ただし、1音だけなら話は別です!

ペダルも何も踏まずに、1音だけを弾いて、ピアノ初心者の弾いた音か、ピアニストが弾いた音かを当てるのはほぼ不可能です。

どちらもいい感じですね。音量の差はあるにしても、音色は変わらない感じです。

さて、次は、ドレミファソと弾いてみましょう。

うーん、初心者さんのはちょっとガタガタしてしまいました。ピアニストと初心者さんの違いは明らかですね。

1つの音では違いはあまり出ませんでしたが、5つの音になったら、はっきり実力が出てしまいます。

ピアノの音色の美しさは音と音との関係性の中で生まれるのです。

フレーズを作ろう

ピアニストのドレミファソは少しずつ大きくなっていて、この変化が自然なので綺麗に感じますが、初心者さんのはどう弾きたいのかよくわからなくなってしまっています。

これが、ピアノの音色が違うと感じる原因なのです。

ピアニストのように自然に大きくしていくのは難しいですが、次のようなドレミファソは練習すればだれでもすぐに弾けるのではないでしょうか。

音量を大きくする幅が一定でなくても、このように演奏すると方向性が生まれてくるため、安心して聞くことができます。

あるいは、次にどうなるんだろうというわくわく感を得ることもできます。このように旋律に方向性を持たせることを、俗に「フレーズを作る」なんて言ったりします。

「フレーズを作る」というと、「魂に響かせて!」というような精神論っぽくなってしまいますが、ズバリ言ってしまえば、

音量の変化に一貫性を持たせる

ということになります。

もちろんリズムや、速さのコントロール、音の切り方も大切になりますが、まずは音量の変化を意識するだけで、音色は劇的に改善するはずです。

まとめ

・グランドピアノも電子ピアノも、コントロールできるのは弾いたときの強さ音の止め方

・「フレーズを作る」とは音量の変化に一貫性を持たせることが大事

ちょっとしたことで、ピアニストの音色に近づくことができますので、ぜひぜひこんなことを考えてピアノの練習をしてみましょう!