ピアノの和音を自在に弾くことができるのが強みです。ひとつの指に一つの音を当てれば10音同時に、親指で2つ以上の鍵盤を弾くなどすればもっと多くの音を同時に演奏することができます。

20世紀の作曲家アルフレード・シュニトケの「即興とフーガ」より。右手で7つの音を同時に弾きます。

とはいっても、ピアノで和音を弾くことはそれほど簡単なことではなく、また、各音をコントロールするのはさらに大変です。今回はピアノで和音を弾くときのテクニックについて紹介していきます。

自然な手の形に当てはめる

和音が出てきたら、楽譜を読むのも一苦労ですよね。一個一個音符を読んでいきながら、鍵盤を探し当てていく作業をする方も多いでしょう。

和音を一度に読むのは慣れるまでは大変です。

実際にこの和音を鍵盤で弾いてみてください。ピアノに慣れている方だと、指を広げなくても弾くことができる和音ですが、慣れていない方だと、小指が届きづらい!となってしまいます。この原因はおもに2つあります。

・関節が逆方向に反っている

・指が鍵盤に触れている位置が悪い

悪い手の形

これは良くない指の形です。人差し指と中指の第一関節が逆方向に沿ってしまい、指が固まってしまいます。また、鍵盤の手前を弾こうとするあまり、小指が黒鍵に届かなくなってしまっています。

和音を一音一音下から順番に指を置いていくと、このような形になりやすいです。こんなときは、一旦リラックスして、鍵盤を確認してから改めて弾きなおすと良いでしょう。

良い手の形

これは良い手の形です。手に力を入れていないときと同じようなフォームになっており、上から掴むように弾くことができています。また、中指を見てみましょう。黒鍵と黒鍵の間に指を滑り込ませることで、このように自然な手の形を保ったまま和音を弾くことができます。

鍵盤は慣れていないと重く感じます。今回のように4つの和音ともなったらさらに重く感じることでしょう。音が安定しなかったり、鳴らない音があったり、あるいは極度に疲れてしまうときは、次のようにしてみてください。

・まず自然な指の形で和音を抑えます。

・手の甲を少し高くして、そこから指がぶら下がっているような感覚になります。

・手の甲をゆっくり下ろしていき、それぞれの指に手の重さが掛かっていくことを感じます。

・鍵盤が沈んで行ったら、指先で鍵盤の底を掴むイメージをします。

力を入れる必要はほとんどなく、手の重さの掛け方で弾くことが大切です。

旋律・ベースを強調して弾く

バランスよく和音を弾くことができるようになってきたら、今度はそれぞれの音をコントロールしていきたくなりますよね。とはいえ、同時に弾く音のうち、一音だけを強く弾くということは非常に難しいです。強調したい音を少しだけ早めに弾くと楽ですが、どうせなら同時に強い音と弱い音を弾き分けたいものです。

大抵の場合、強く弾きたい音は、右手の小指(一番高い音)か、左手の小指(一番低い音)となります。最も力が弱そうな小指を最も強く弾かなければいけないので大変そうですが、どのように考えればよいのでしょうか。

この時のポイントは重さです。小指を強く弾こうと思うのではなく、手の重さを小指側に掛けよう、と思うとうまくいきます。

小指側に重さをかけます

強い音が欲しい指のみ突っ張るように弾くことでも可能ですが、疲労の原因になりやすいほか、痛みが出る場合もあります。とくに音を際立たせたい場合は突っ張って弾くこともありますが、基本的には手の重さの移動によってコントロールすることをおすすめします。

手を固めて弾く

ピアノは基本的にリラックスして弾くものですが、曲によっては手を固めて演奏したほうが良い場面も存在します。ただし、これは極めて上級テクニックで、基本的には行わないようにしてください。指の形を固定することで、速い平行移動がしやすかったり、和音の連打を均質な音で行うことができます。また一つの和音を完全に同時に弾くことで、無機質な音を出すことも可能です。しかし、手を固めて弾く際でも、必要以上に力んではならず、手首や肘など、動かす部分は柔らかくする必要があります。

この曲はドビュッシーの映像第1巻第3番「動き」という曲ですが、硬質な(しかし極めて繊細な)音が全体を支配しています。冒頭には「動きをもって(気まぐれな軽やかさがあり、しかし明確に)」と指示されており、なかなか演奏の解釈が難しいところです。

完全五度は空虚・無機質を象徴する音ですが、この和音は正確に同時に鳴ってほしい音です。少しでもズレてしまうと、完全五度の味が薄くなってしまいます。指使いを右手も左手も5-2にして、指を固定することで、綺麗な完全五度を弾くことできます。

また、途中にはこのような五度+オクターヴの和音で平行移動する旋律が登場します。これも、すべて1-2-5の指で固定して弾くと、3つの音からなる和音というより、1つの硬質な音色を持つ音として旋律を作ることができます。

ピアノは本来自由に弾いてよい楽器

ピアノを弾くときは、リラックスして全身の可動域を大きくしつつ、自然な動きで弾くのが基本です。しかし練習中は、もしこのように弾いてみたらどうなるんだろう?とあれこれ試してみましょう。試行錯誤を繰り返す中で、徐々にピアノにどのようなアプローチをしたらどのような音が返ってくるのか、というのがわかるようになります。

意識を変えてみたり、身体の使い方を変えてみたり、と工夫して練習してみてください。