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インタビューシリーズとして、Phonimの講座に出演する世界的なアーティストの皆さんから、主に海外での活動についてお話を伺います。

今回はピアノの講座に出演する榎政則氏!

フランスの独特なお国柄に揉まれ、助けられながら、パリで10年近くアーティストとして活躍されてきました。

音楽(楽器)との出会いはどんなものでしたか?

初めての記憶というのは、家にあるアップライトピアノを触っていた記憶です。このとき2、3歳だったと思います。

当時は身長が1メートルもなくて、鍵盤の下に頭が入っている状態で手を伸ばすとぎりぎり鍵盤に指がとどくという状態でした。
鍵盤を探しながら音を鳴らしているのを覚えています。

両親がいるときは椅子にすわらせてくれて、その時は鍵盤を見ることができて、目の前の世界がぱーっと広がったのを覚えています。

そんな意味ではかなり身近に音楽があったので、ひらがなを覚える前には音符を読めていたと思います。

ただ音符が読めるといっても、当時は子供で難しかったので、適当に音を鳴らして遊んでいました。

よく覚えているのは雷が鳴った時のゴロゴロと言う音がピアノの低音をガンガン手のひらで叩いた音に似ている、というのが楽しくて、雨の日の音、雷の音はピアノの低音で表現できる、というのを楽しんでいました。


低い音が雷なら、高い音は晴れている音になるのではないか、とやってみたりして、、、
でも、なんだか、晴れている音というより、雨上がりの音みたいになるな、などと思いながらピアノを触っていた記憶があります。 

 

訪れた国で一番好きな国とその理由は?

いままで訪れた国といえばヨーロッパの各都市がほとんどで、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、イギリス、そしてアフリカ北部にあるほとんどヨーロッパに近いモロッコ、他にベルギー、オランダとかですね。

やはり、フランスは8年住んでいたので思い入れがあります。
初めてフランスに行ったのは20歳か21歳くらいでした。

それが初めての海外旅行でした。

学生、65歳以上はオペラとかバレエとかオーケストラの特等席をかなり安い値段、2,3千円で見ることができるシステムがありまして、2-3時間並ぶとチケットが買えます。
人気公演は6時間くらい並ぶこともあります。
そこに並んでいるときにフランス人のシニアの方と話す機会がよくありました。

僕はまだ、フランス語は日本の学校で2年間くらい学んだだけだったのでしゃべれはしなかったのですが、なんとか意思疎通して仲良くなっていてメールアドレスの交換をしたりしていました。


その後、いよいよ、フランスに入試を受けに来た段階でかなり行き違いが多く、ホテルに泊まれなかったのです。


探し回ってなんとか泊まれたホテルが最悪で、そこら中に蜘蛛の巣が張っていて、手入れもされていなくて、トイレもなく公衆トイレに行かなければなりませんでした。


入試の時にこんなひどい状況はさすがに耐えられない、とフランスの唯一の知り合いであるオペラで知り合ったシニアの方に連絡をとってみたらホームステイ先を紹介してもらえました。

その後も2、3年は、ことあるごとに困ると助けてもらい、夕食にも呼ばれて、いろいろお世話になりました。
この方がいなければフランスの留学生活は成り立たなかったであろうと思うほど恩がある方に出会いました。
このようにフランス人の特性、まあ、全員が、というわけではないのでしょうが、助けようと思った人は最後までどこまでも助けてくれる、という方達が多いという印象です。

そういう方たちに助けられてきました。かなり酷い目にも遭いましたが、そのたびに相談すると乗り越えることができました。
フランスはかなりクセの強い方が多いですが人に迷惑をかけながら生きていくことも許されていて、むしろそうでないと生きていけない、ということもあって、人との繋がりが良い国だなと思います。
必ずしも良い結果になるとは限らないですが、個人的にはそういうところが肌にあったかな、と思っています。

 

疲れた時、これを食べれば元気になる、という食べ物は?

フランスの特徴として外食がとんでもなく高いということがあります。
ファーストフードですと1000円くらいで済むのですが、そうでないと、3000円は出さないと軽い食事も食べられないというところがほとんどです。

なので、だいたい自炊になるわけです。
初めは自炊も酷いものだったのですが、そのうち自分の味が確立してきてだんだんそれが自分の一番好きな味になっていきます。

日本に一時帰国したり、どこか遠いところに演奏旅行に行ったり、忙しすぎて自炊できない期間が続くと体が疲れてきます。
そういう期間が2、3週間続いたあと、ほっと自分の家で一息つける日が来ると、ふらっと買い出しに行き自分の食べたいものを作ります。

自分の料理が一番落ち着きますし、一番疲れを回復させる効果があると感じます。
自分が好きな味や自分が欲している栄養素にダイレクトにアクセスできるという点で、自分の料理が最も美味しく感じるのかもしれません。

あと、フランスで一番通ったレストランがあります。
モロッコ料理のクスクス屋さんです。
クスクスというのは小麦粉を固めてパスタ状にはしているのですが、それがとっても細かい粉みたいになっています。
そしてトマトをベースにした香辛料がよく効いたスープにつけて食べるというものです。

クスクスを食べにモロッコに行く旅に出ました

それに本当にハマってしまい、毎週、毎日通っている時期がありました。
あまりにハマってしまったため、クスクスを食べにモロッコに行く旅に出ました。
フランスのクスクスは割と上品な味に仕上がっていたのですが、モロッコのクスクスはもっと、カレーみたいな風味が強くて水分が少なく、スープというより野菜のような感じでした。

あ、本場のクスクスはこういうものなんだ、この味をどうにかしてコピーできないか、と試行錯誤を繰り返しました。
絶対に作り方は違うのだとは思いますが、自分なりのクスクスがつくれまして、それは、自分の体を回復させる料理として一番のものとなっています。

ファッションのこだわりポイントが有れば教えて下さい

 

フランスというのはけっこういい加減な国で、本番がものすごいタイミングで入ってきます。
今から2時間後にこのホールで弾いてくれないかとか、今から3時間後に映画館の前座で弾いてくれないか、とか、日本では考えられないような本番のお仕事が結構入ってきました。

それが毎週のようにあって、午後2時ごろまでは平和に過ごしていても、いきなり電話がかかってきて4時からの演奏を変わってくれない?といわれたりすると、問題は服装なのです。
Tシャツにジーンズのようにとんでもないラフな服装だったりしますので、急いで家に帰って、シャツとスーツに着替えて行くという感じでした。

フランスのシアター「今から3時間後に前座で弾いてくれないか」

あまりにそれが多いので普段からスーツらしい服装で生活をしていれば、こういう本番もさっといけるのではないか、という考えになったのです。
大きいホールで弾く本番でなければ、そんなにピシッと決めていく必要はなく、ジーンズ、シャツくらいで演奏する人もいます。

私は、ジャケットを羽織って黒目のジーンズか黒のスラックスをはいて普段を過ごすことが多くなりました。
シャツの柄は自由に選ぼうと思って、いろいろな柄のシャツを着るようになりました。
フランスでは無声映画の伴奏という仕事がとても多かったのですが、無声映画は、コメディや、恋愛もの、戦争ものもあり、内容に合わせてシャツの柄とネクタイを考えることに凝っていた時期があります。

そんなこんなで、ジャケットにズボン、シャツ、が気持ち的にも落ち着く服装になっています。

 

最近みた、素晴らしい景色、瞬間を聞かせて下さい

フランスとスペインの国境にピレネー山脈という大きな山脈があります。
この山脈が国境を隔てているのですが、そこにドライブに行き少し歩いてきました。

かなり曇っていて周りが何も見えない状況でした。
そこに大きなダムがあり、歩いている時に一面霧で真っ白になっていて空中に浮いているようになっていて神秘的な体験でした。

ピレネー山脈でのドライブ

その後少し歩いているとだんだん霧が晴れてきて晴れ間が見えてきました。そして、眼前が一気に開けると、いままで歩いてきた道のりが全て見通せて、今いる地点よりはるかに高い峰を臨み、あまりの壮大さに圧倒されることとなりました。

フランスと日本では全く文化が違いますが、自然もまた全く違う景色を見せます。空の色合い、植物の緑、水の色、どれをとっても日本のそれではありません。

日本で、鬱蒼とした林をくぐりぬけ、滝の音と湿気に全身が包まれると、全身が落ち着き、帰ってきたんだなあ、と実感することになります。

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この記事を書いたひと:フォニム スタッフ


榎 政則氏 プロフィール

麻布高校を卒業後、東京藝大作曲科を経て渡仏。パリ国立高等音楽院音楽書法科修士課程を卒業後、鍵盤即興科第一高等課程を首席で卒業。2016年よりパリで無声映画の伴奏ピアニストを務めるほか、Forum des Images、Cinémathèque Françaiseなどパリの主要文化施設や映画館で活動。

榎 政則氏の講座

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