22歳で作曲・音楽理論を専門としてフランスに渡り、気付いたらピアニストになっていましたが、フランスではびっくりするような出来事がいくつも起こりました。その中で特に印象的だったピアノに関わるエピソードを紹介します。今回は「教会での演奏会で渡されたもの」編です。

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パリは、4~6月の天気が不安定なことが多く、突発的に大量の雹(ひょう)が降ることがあります。

高名なピアニストとのレッスン


さて、作曲のほうからピアノ即興演奏のほうに進路を変えたとき、やはりピアノの技術に関しては不安が多くありました。


学校でもピアノを習っていたのですが、一回外部の先生にも見てもらったほうが良いと助言を受けて、紹介されてパリ在住の高名なピアニストのところへ習いに行きました。

今まで習ってきたどの先生よりも厳しく、一度言われたことができないと、ピアノを蹴とばす始末(ご自身のピアノなのに・・・)。


それでも、ピアノの弾き方を一から徹底的に見直させられ、曲に対しての理解も深まり、今までとは全く違うピアノの向き合い方ができるようになり、自分のピアノ人生の中でも非常に有意義なレッスンとなりました。



とはいえ、さんざんに言われて、打ちのめされて、時間も時間だからさあ帰ろう、と荷物をまとめたときに、外で轟音が鳴り響きました。

大粒の雹がものすごい勢いで降ってきたのです。

これでは帰ることが出来ません。先生も、少しゆっくりしていきなよ、と雹の中で雑談をしました。


雹の打ち付ける音をBGMに、即興を聞いてもらうことに…

「即興演奏を勉強し始めたところなんです」

というと、

「では、即興して聞かせてくれないか」

となりました。


「何かお題をください」

「即興は自由にするものだから、自由に弾いてくれ・・・だけどそうだな、リゲティ風ではどう?」

なお、リゲティは、20世紀後半から21世紀初頭に活躍したハンガリー出身の大作曲家です。私が大好きな作曲家でもあり、気合も入ります。


雹の音をBGMに即興を開始します。5分ほど弾きました。弾き終わると、

「Tu es vrai musicien !」(君は真の音楽家だ!)

と言われて握手されました。


ピアノに関しては、周りとのレベルの違いに劣等感を抱くことも多くありましたが、この言葉にいつも支えられてきました。

音楽家として生きる道を強く決心した瞬間でした。

先生の家を出たとき、積もった雹を踏みしめたときの感触まではっきりと覚えています。