ピアノの練習をしていると、「ossia」という言葉に出会うことがあります。この言葉に出会ったら、「いよいよ難しい曲にチャレンジしているんだなあ」と思うかもしれません。一方で、Ossiaはどのように捉えれば良いの?と思うこともあるでしょう。そんな「ossia」について今回は詳しく見ていきましょう。

イタリア語「ossia」のもともとの意味は「または」

現代イタリア語で「ossia」(「オッシア」と発音)というと、「言い換えると」という意味になります。「o + sia」からできた言葉で、「o」は英語の「or」と同じで「または」、「sia」は英語の「is」(be動詞の三人称単数現在形)と同じで「である」となります。

そして、「同じことだが」「言い換えると」「つまり」といった意味になりました。

音楽の場面で使われる際には「こちらで演奏してもよい」という意味になります。

リストの「ラデッキー行進曲」より。Ossiaのほうが簡単に演奏できます。

「ossia」をなぜ書くのか?

作曲家の心理を考えてみましょう。一つの曲で何通りかの選択がある場合は、「誰が弾いても良い演奏であって欲しい」という積極的な理由や、「自分ではどちらが良いか決められないから演奏者に決めて欲しい」という消極的な理由があるかもしれません。場合によっては、「作曲依頼をした演奏者に文句をいわれたから変える必要があったが、変えたくなかったのでオリジナルはossiaとして残した」というあきらめの悪い場合もありそうです。

また、楽譜出版社の意向によってossiaが書かれることもあります。

演奏者から見た場合は、主に次のパターンとなります。

①オリジナルは技術的に演奏困難なため、ossiaで演奏が容易になる

②楽器の個体差によってはオリジナルが演奏不可能な場合があり、ossiaで別のアイディアを提示する

③オリジナルに不自然な部分があり、校訂によって直されたが、オリジナルはOssiaとして残された

④異なるアイディアの曲となっており、どちらを弾いてもよい

様々な意見があるところですが、著作権が切れていたり、作曲者と合意が取れていたり、自分自身のために演奏するのであれば、楽譜はどのように改変して演奏しても問題ありません。ですから、ossiaに出会ったら、基本的にはオリジナルの方を演奏し、演奏しづらかったり違和感を覚えたらossiaを見てみる、とするのがよいでしょう。

モーツァルトの「トルコ行進曲」より。ossiaのほうが旋律の繋がりが自然です。

いろいろな「ossia」

ossiaと書いて五線を付け足すのは楽譜を制作する上でも手間ですし、1ページに入れられる楽譜の量が少なくなってしまいページめくりが増えてしまったり読みにくくなっていしまうことがあります。特にずっとOssiaの譜面が続くと、段が変わった時にどちらを弾けば良いのかわからなくなってしまうこともあります。

リストの「ハンガリー狂詩曲9番」より。Ossiaの譜面が長々と続きます。

このような事情があり、簡単にすむ物であればわざわざ「ossia」と書かない場合もあります。

ガーシュウィンの「魅惑のリズム」より。3小節目の指使いが複数あります。

この例では、指使いにいくつかの可能性が示されているossiaです。このような場合は、例のように線で区切ったり、書体を変えたりしてossiaを示す場合が多いです。

リストの「ラデッキー行進曲」より。いろいろな弾き方が提案されています。

逆にこれは行き過ぎたossiaと言えるでしょう。真ん中の段がオリジナル、上の段は「Facilité」(簡単な版)とあり、下の段は「Ossia」と書かれています。

基本的には真ん中の段で演奏するべきですが、3度のグリッサンドを同時に演奏するのが難しいと思えば上の段(Facilité)で演奏します。また、オリジナルが少し派手過ぎると感じれば、下の段(Ossia)で演奏しましょう。下の段(Ossia)はオリジナルよりもむしろ難しいくらいです。

自分の身体・楽器・音楽観に合った楽譜を選ぼう

ピアノは基本的に88鍵盤の楽器ですが、ベーゼンドルファー社のインペリアルの97鍵盤のピアノに代表されるように、さらに音域を拡張したピアノが存在します。また、当然その楽器のために書かれた曲もあり、88鍵盤のピアノで演奏する場合は鍵盤が足りないため別の方法を考えなくてはいけません。

また、人それぞれ手の大きさも形も違いますから、ある人にとって弾き易いパッセージも、自分には弾きづらい場合があります。そのようなときは、オリジナルの楽譜を弾くよりも効果の高い方法があるかもしれません。

特にossiaが現れる楽譜では人によって演奏効果が異なる場合が多いので、「オリジナル至上主義」になることなく、自分にとって最もよいパターンを選んで練習することをおすすめします。

また、アンサンブルの際には、どの版で弾くのか決めておかないと、和音が上手く響かなくなったり、リズムが揃わなくなってしまうことがありますので、しっかり打ち合わせをしておきましょう。