バイオリンの美しい旋律で広く知られている《G線上のアリア》。

大人気シリーズ「劇場版エヴァンゲリオン(Air)」でも重要なシーンで印象的に流れ、映画を盛り上げました。また、2019年にドラマ化された、いくえみ綾による漫画作品「G線上のあなたと私」では、ヒロインがバイオリンを始めるきっかけになった曲です。

クラシック音楽ファンに愛され、映画やドラマで頻繁に使用され一般にも知られる《G線上のアリア》。今回は、その人気のヒミツを紐解いていきます。

「G線上」「アリア」とは

まず、《G線上のアリア》という名前から見ていきましょう。「G線上」という、この曲以外ではふだん聞くことのない単語は、バイオリンの4本ある弦のうち、音が最も低い「G線」(階名で言うところの【ソ】の音でチューニングされた弦)のみを使って演奏されることに由来しています。

じつは「G線上」は、バイオリンやヴィオラなどの楽譜でたびたび目にすることがあります。楽譜上で【Sul G】(伊/読み方はスル・ゲー)と表記されているものがこれにあたります。正確には「G線で弾け」などと訳されますが、同じように、【Sul D】【Sul A】【Sul E】も存在し、ここはこの弦で演奏しなさいと作曲家が奏法を指示するものです。

バイオリンの弦は、弦の太さや、弦に使われる材質の違いから、それぞれが発する音色は異なり、それぞれが個性をもっています。たとえば、G線と、G線のとなりのD線のどちらでも鳴らせる音(ミなど)を、弾き比べてみてください。G線でハイポジションの位置で奏でたときと、D線でファーストポジションの位置で奏でたとき、双方は、たしかに同じ音ではありますが少し異なる聞こえ方がすると思います。

G線上のアリア誕生話

この曲は、もとは、ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲の《管弦楽組曲第3番》に収録された「アリア」で、バイオリン独奏のためではなく、弦楽合奏にトランペットやオーボエ、ティンパニなどが加わった編成のために書かれたものでした。このアリアを原曲として、1871年、バイオリニストのヴィルヘルミが、G線だけを使用して演奏できるように編曲し、次第に広まっていきました。

「アリア」は、イタリア語で【Aria】、フランス語では【Air】(エール)と記され、元々は、オペラやカンタータなどの歌曲のために作られた音楽の形式です。ゆったりと歌い上げる曲が多く、「アリア」といえば、オペラでは登場人物の心情をゆたかに表現したもので、同時に独奏者である歌手の技量が試され、聴かせどころとして知られています。

17〜18世紀には組曲の緩徐楽章としても使用されるようになり、バッハも自身の器楽曲作品(歌ではなく楽器によって演奏される曲のこと)に「アリア」を取り入れました。《管弦楽組曲第3番》のほかにも、《フランス組曲第2番》《パルティータ第4番》《ゴルトベルク変奏曲》にもアリアの曲があります。

楽譜を見ていきましょう

楽譜の1小節目1拍目の上を見ると【Adagio】(伊/アダージョ)とあります。これは速度記号で、「AndanteとLargoの中間程度のテンポで」「ゆったりと」「静かにゆっくりと」という意味です。

「ポン ポン ポン ポン」というまるで大時計の針の音のような、心地良い八分音符の伴奏をともなって、ソリストの息の長いE(ミ)の持続音で曲が始まります。緊張感のある場面ですが、伴奏がC→H→A→G(ドシラソ)と下降していくにつれて、音楽が盛り上がっていくのを感じましょう。

セクションAが終わり、B1に入ると、音価の小さい音符や、複付点音符が増えていきます。リズムにも注意しましょう。また、装飾音は、慣れないうちから入れてしまうと自己流になり、不自然に聞こえたり、変なクセがついてしまいがちです。はじめは旋律の流れに意識をおいて、自然に弾けるようになってから装飾音をつけて演奏しましょう。

演奏に必要な技術

この曲を練習するとき、とくに苦戦するのは、通常はD線やA線で弾くような音域までもG線上で弾ききるために、頻繁に行ったり来たりする左手(ポジションの移動)、ハイポジションでの音程取り、弓の細やかな使い分けなどが挙げられます。

なかでも難しいのは音程取りで、上のG(ソ)〜 B(シ♭)は、G線で正確に鳴らすことができるまでそれなりの時間が必要です。

また、ゆったりとした曲は、フレージング(旋律のまとまり)がいっそう重要になってきます。バイオリンの旋律を一度声に出して歌ってみると、旋律のひとまとまりがどこで始まってどこで終わるのかが掴みやすくなりますが、難しいと感じた場合には、プロによる演奏を聴いて、参考にしてみましょう。

G線は、バイオリンの弦のなかで最も太い弦のため、しっかりと押さえにくく左手指への負担がともないます。そのため、バイオリンを始めたばかりの初心者や、バイオリンを久しぶりに再開した奏者にとっては、《G線上のアリア》はやはり難易度の高い一曲です。

それでも諦めたくないという方は、G線だけでなく、D線も活用して挑戦してみましょう。そうすると、音程取りや、右手の弓を調整する問題がなくなり、練習すればうまく演奏できるようになります。

音が跳躍している箇所が多く、左手も右手も、GからDへ、DからGへと弦をすばやく変えて次のフレーズを始めるところがありますので、身につくまでゆっくりと、重点的に、くり返し練習しましょう。

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