オーケストラを率いる「孤高の楽器」ヴァイオリン。現在の形に至るまでの詳しい歴史はあまり広くは知られていません。そんなヴァイオリンの発祥からの歴史をまとめました。

まず、「弓で弦を振動させる」仕組みの楽器はもともとイスラム圏が発祥です。

スペインは8世紀から13世紀くらいまで主にイスラム教が栄え、イスラム文化のヨーロッパへの玄関口となっていました(その名残がアルハンブラ宮殿ですね)。

8世紀ごろ、北アフリカのイスラム系民族ムーア人によって、ヴァイオリンの起源となる楽器がスペインに伝えられたとされています。

直接現在の楽器のもととなる楽器を発明した人物は明らかになっていませんが、形状の特徴などから推測して、おそらくイタリアのクレモナ市の楽器職人、アンドレア=アマティ(1505年頃 - 1580年以前)によるのではないかとされています。

クレモナ市:北イタリアの人口7万人の地域。
ストラディヴァリ、ガルネリ、アマティの工房はこの街で数ブロックの近さにあったとされる。

ヴァイオリンの製造が全盛期となった頃のクレモナは、当時イタリアのほぼ全域がそうであったようにスペイン王国の支配を受けていました。

ストラディヴァリによって作られたヴァイオリン、チェロ、ヴィオラがいまも複数スペイン王室に保存されていますが、これは画家ゴヤの大きなパトロンともなった、芸術好きの国王カルロス4世によって買い集められたものです。
国王自身もアマチュアヴァイオリニストであって、これらの楽器は王室の大変手厚い保護を受けてきました。

17世紀クレモナに現れた名工3人、ニコロ=アマティ(アンドレアの孫)、ジュゼッペ=ガルネリとアントニオ=ストラディヴァリの作品は今も現存しており、実際の音を聴くことが出来ます。

当時多くのヴァイオリン職人がアマティの工房の弟子としてスタートしていました。
アマティより年齢が一周り下のガルネリ、ストラディヴァリもこの工房の出身であったと言われています(近年、ストラディヴァリについては楽器の特徴から系譜が違うとする研究もあるようです)。


さて、現代のヴァイオリンは標準化されているため、弦の長さが数ミリメートルずれていれば、プレーヤーはすぐにそれに気付くでしょう。しかし、当時のヴァイオリンは厳密な規格のあるものではありませんでした。そして特に大きな変化が、19世紀の初頭に起こります。

19世紀のヴァイオリンのソリストは、それまでの貴族のサロンなどにとどまらず広い演奏会場での公演も行うようになり、ヴァイオリンには一層の音量が要求されるようになっていました

19世紀の代表的ヴァイオリンソリスト ニコロ=パガニーニ

そうした当時の楽器所有者の事情によって、18世紀までに作られた有名なヴァイオリンは基本的に職人によって改造(専門的には「グラフティング(接ぎ木)」と言います)を施されています。
現代のヴァイオリンに見られる「あご当て」もこの時代に後で取り付けられたものです。

改修跡の残るストラディヴァリウス
(Metropolitan Museum of Art蔵)


このような改修は,胴体が平らなストラディヴァリのような楽器のほうがやりやすく、他の中世の工房による胴の膨らんだ作品では調整が難しいとされています。それが、伝統的なヴァイオリンの中でストラディヴァリがその後の源流として残っていった大きな一因であるとも言われています。