拍子という言葉は、実は日本語にとても深く根付いています。「手拍子」「とんとん拍子」「突拍子」「拍子抜け」等々。これだけ生活に深く根付いた拍子という言葉ですが、音楽用語としての「拍子」は少し曖昧な理解のままである方も多いのではないでしょうか。この記事では「拍子」とは何なのかを徹底的に解説します!

「拍子」とは

拍子とは、が集まってグループ化したものです。楽譜に書くときは、グループ化したものを小節としてひとまとまりにします。

小節の中には、2つ以上の拍が入ります。(一応1拍子も考えることが出来ますが、非常に稀です)

小節内に2つの拍があるときは2拍子

小節内に3つの拍があるときは3拍子

・・・

となります。

さて、上の例では、拍を作っている音価(音符の長さ)が四分音符です。そして、四分音符が4つ集まって一つの小節を作っているので、4/4拍子(四分の四拍子)となります。

算数で考えると、全音符の¼の長さの音符が4つ集まって出来た拍子なので、¼ × 4という意味で、4/4拍子というわけです。4/4拍子の音楽が始まるときは、縦に4、4と書いて表します。これを拍子記号と言います。

五線譜の第三線(真ん中の線)が分数の括線(分母と分子の間に入る線)の役割をしているので、数を二つ書くだけでOKです。

他の例も見てみましょう。拍が八分音符でできていて、それが3つでグループ化しているときは、3/8拍子(八分の三拍子)となります。

単純拍子と複合拍子

2拍子や3拍子のように、それ以上グループ分け出来ない拍子を単純拍子といいます。

一方で、6拍子(3×2拍子)や9拍子(3×3拍子)のように、小節の中で拍をまとめて、大きな拍を作ることができる拍子を複合拍子といいます。

このような定義があるにも関わらず、慣習的に4拍子は単純拍子に分類されます。たとえば、4/4拍子は、2拍でまとめて、2拍子にすることができますが、単純拍子として扱います。この扱いの違いは、次の項の強拍と弱拍に関係してきます。

6/8拍子のまとめ方

Q.6/8拍子は3拍をまとめて2拍子にしましたが、2拍でまとめて3拍子にはしないのでしょうか。

A.しません。八分音符2つでまとめる場合は、4分音符にすることができるため、3/4が正しい拍子です。

6/8拍子と書かれていたら、99%3拍をまとめた2拍子です。(例外として、6拍を分割することができない単純拍子である場合があります)

複合拍子は、2・3・4拍子の拍を3分割したものと考えて問題ありません。

複合拍子は拍をまとめるというより、単純拍子の1拍を3分割したもの、と考えた方がより簡潔です。

たとえば、3/4拍子の1拍を3分割して、9/8拍子という複合拍子を作ることができます。

強拍と弱拍

単純拍子の小節の頭の拍を強拍といい、それ以外の拍を弱拍といいます。ただし、4拍子は例外的に3拍目も強拍といいます。

強拍・弱拍は、演奏するときの音の強さを表しているわけではありません。これは誤解が多いのですが、強拍を強く演奏する曲は、行進曲などの一部の曲に限ります。

単純拍子の拍をそのまま3分割すると複合拍子になりますが、この強拍と弱拍は受け継ぎます。

なお、複合拍子の場合、細かな拍には強拍や弱拍といった名称が付きません。こうしてみると、弱拍よりも「弱い」拍があることがわかります。ゆっくりな9/8拍子のような曲だと、むしろ弱拍も十分強拍的な性質を持った拍に感じられます。

★6/8拍子の「2拍目」

Q. 6/8拍子の曲のアンサンブルをしているときに、2拍目から始めよう!と言われました。一体どこの拍を指しているのでしょうか?

A. 残念ですが、わかりません!人によっても曲によっても違います。

一般的には、強拍を1拍目、弱拍を2拍目と呼び、1、2、1、2とカウントします。なぜなら6/8拍子は2拍子の各拍を3分割したものだからです。しかし、ゆっくりな曲であれば、1、2、3、4、5、6とカウントします。

こういった事情があるので、速い曲でも6までカウントする人もいれば、ゆっくりな曲を2拍子のようにカウントする人もいます。分からなかった場合は、直接聞いたり、カウントの仕方を話し合って決めると良いでしょう。

★中強拍とは

Q. 「4/4拍子の3拍目を中強拍という」と聞きました。この記事では「強拍」です。どちらが正しいのですか?

A. どちらも正しいです。なぜなら教科書や文献によって統一されていないからです。

音楽は学問的な言葉の統一があまりなされていない分野です。誤解も多くありますし、用語も文献・人によってバラバラです。実は「拍」「拍子」といった言葉でさえ、人によって定義が違います。というより、正確に定義をしようと思っている人のほうが少数派です。困ったものです。

拍子の中で、「強拍」「弱拍」「下拍」「上拍」「表拍」「裏拍」「中強拍」「やや強拍」・・・いろいろな言葉が登場しますが、これを意識して正確に使い分けている人がどれほどいるのでしょうか。

今回の記事で3拍目を強拍にしたのは、4拍子を「2拍子を2つ繋げたもの」と捉えているからですが、「単純拍子の1拍目を強拍と呼ぶ」という定義を採用している人にとっては3拍目は強拍になりえませんが、2拍目4拍目の弱拍よりは強い拍なので、4拍子の3拍目は中強拍となります。

アクセント

前項の説明のなかで、強拍は強く演奏するという意味ではないという話をしました。しかし、拍子の中の拍は決して均等とは限りません。ある拍を強調して演奏する場合、その音をアクセントといいます。ただしこれも誤解の多い言葉で、「>」の記号で表すアクセントとは違う意味です。どちらかというと、言葉のアクセントや、「訛り」という意味のアクセントに近いです。同じ拍子でもアクセントが違えば全く違うリズム感が生まれます。

いくつかのアクセントの例をみてみましょう。

行進曲は歩くための音楽、ガヴォットやワルツは踊るための音楽です。このように身体の動きの密接に結びつている場合は、独特なアクセントが生まれます。このアクセントは楽譜に書いてあるわけではないので、そのリズムを知ること体得することの両方が大切になってきます。ただし、これは一朝一夕に身につくものではありません。ワルツと一言で言っても、ワルツのリズムは奥が深く、極めるのに何年もかかるでしょう。その道の人の演奏を何度も聞いたり、実際に身体を動かしてみて、徐々に身に付けていくのがお勧めですが、カジュアルに演奏したい場合はそこまで気にしなくてもよいかもしれません。

★アウフタクト

Q. ガヴォットのリズムはなぜ始めの小節に四分音符が2つしかないのですか?

A. ガヴォットのように一部の曲は小節の途中から音楽が開始することがあります。これをアウフタクトと言います。ドイツ語で「上拍」の意味です。指揮をするときに手を上げたとき、という意味ですね。

ガヴォットに限らず、英語やドイツ語のように冠詞(aやtheのように名詞の前について、それが指定できるかどうか表す言葉)が存在する言語の文化圏の曲にはアウフタクトで始まる曲が多いです。例えば「私の心」という意味の歌詞を作るとき、日本語なら、

たしのころ

と、小節の頭から始めるのが自然ですが、英語なら

My heart

と、アクセントが途中に来るので、アウフタクトで始まるのが自然になります。

★ヘミオラ

Q. メヌエットを弾いていたら、突然2拍子のようになり混乱してしまいました。これは何ですか?

A. メヌエットやサラバンドといった3拍子のバロック舞曲は、曲の区切りの前に2拍ごとにアクセントがくる小節が入ることがあります。これをヘミオラといいます。

広義のヘミオラは、ある拍子の中で、別の拍子が一時的に出てくることで、インド音楽にも見つけることができます。

グルーヴあるいはノリ

前項では、身体の動きという話が出てきましたが、飛ぶ動き・回転する動き・膝を曲げる動き、それぞれエネルギーも所要時間も異なります。演奏も人間がする以上、各拍のエネルギーや所要時間はそれぞれ異なります。わずかな差である場合もあれば、極端な場合もあります。

このような不均等なリズムやアクセントによって、独特な雰囲気や情緒が生まれます。このことをジャズやポップスの言葉でグルーヴといったり、カジュアルにノリと言ったりします。

特に、各拍の分割の仕方に特徴が出てくるパターンが多いです。

フランス風序曲のリズム

四分音符は均等ですが、それを分割するときに、かなり次の拍に寄ります。これにより、力強いノリが生まれます。

スイング

スイングとは四分音符を分割するときに、わずかに後ろ側に寄せることで、跳ねるような独特のグルーヴが生まれます。スイングにおいては、強拍でさえピッタリあわずに後ろ寄りになることもあるほか、弱拍のほうが強拍よりも強く、さらに裏拍(四分音符と四分音符の間の拍)のほうが強いという特徴があります。なお、これはスイングの一例で、他にも多様なスイングがあります。

★シャッフルとスイング

Q. 跳ねているようなリズムのときに、シャッフルという言葉を使っていました。スイングとはどう違うのですか?

A. シャッフルは均等な4拍子の各拍を2:1に分割するリズムのことで、12/8拍子の一種です。スイング4拍子すら不均等であることがあり、また各拍の分割も様々です。

リズムを極めた人は、四分音符だけでもシャッフルとスイングの違いを弾き分けることができます。四分音符のアクセントの位置や、音の切り方でグルーヴを作ることができるのです。

混合拍子・変拍子

モダンな響きを作りたい場合に、5拍子や7拍子といった単純拍子でも複合拍子でもないような拍子や、次々に拍子が変わる音楽も存在します。小節のなかで、2+3のように、一定でないグループ化ができる拍子のことを混合拍子といいます。

1拍足りない感じや、1拍多い感じは、音楽に推進力をもたらしたり、独特の情緒を生みます。慣れていないと、カウントするだけでも大変なので、自然に刻めるようになるまで練習する必要があります。

聞いている側は、カウントする必要がなく、リズムの複雑さを心地よく感じることができます。

混合拍子は拍子自体は変わることはありませんでしたが、小節ごとに拍子が変わることを変拍子といいます。

このリズムを演奏するのは非常に困難ですが、うまく行くととてもカッコいいですね。

★3分割以外の複合拍子

Q. 10/8拍子って複合拍子ですか?混合拍子ですか?

A. 場合によります。5+5の場合は複合拍子、それ以外の場合は混合拍子です。稀に単純拍子であることもあります。

複合拍子として捉えた場合は、2/2拍子の各拍を5分割していると考えます。

その他のリズム

他にもいくつもリズムはあります。全て紹介するのは大変なので、特徴的なリズムを3つ挙げます。

拍子なし

即興的に、あるいは自由に歌う時に、拍子が無くなることがあります。本当に拍子がないこともあれば、わずかに拍節を感じることもあります。

ポリリズム

各パートの拍子が異なるとき、ポリリズムと呼びます。八分音符を共有していたり、何も共有していなかったりなど、様々なポリリズムがあります。

クロスリズム

拍を共有しているけれども、分割の仕方が違う2つ以上のリズムを同時に演奏することをクロスリズムといいます。なお、ポリリズムとクロスリズムの用語はしばしば混用されます。

楽曲の例

ここまでに挙げてきたリズムを用いた曲をまとめました。ぜひ参考にしてください。

速い6/8拍子

技巧的な曲で知られるリストの「タランテラ」です。タランチュラに噛まれて狂ったように痛がっている様子を踊りにしたものと言われています。

遅い9/8拍子

フォーレの「ヴァイオリンソナタ1番」より2楽章です。3拍子を3分割しているというリズム感は失っていませんが、9カウントすることもできます。

行進曲(2/4拍子)

エルガーの「威風堂々」です。いかにもマーチ(行進曲)といったリズムになっています。

ガヴォット(アウフタクト付き4/4拍子)

バッハの「ヴァイオリンのためのパルティータ」よりガヴォットです。いかにもガヴォットらしい軽やかなリズムになっています。

ウィーン風ワルツ(3/4拍子)

ワルツ王とも言われたヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」です。よく聞くと、2拍目が少し引き延ばされていることがわかります。

ラグタイム(4/4拍子)

ラグタイムの名手アート・テイタムの名盤「タイガー・ラグ」です。アートテイタムは世界8番めの不思議と呼ばれたほどの伝説的なピアニストで、音楽界に大きな衝撃を与えました。

フランス風序曲(2/2拍子)

ヘンデルの大作「メサイア」の序曲はフランス風序曲になっています。付点のリズムのようですが、付点よりさらに鋭く、威厳のあるリズムです。

スイング(4/4拍子)

ジャズの大家マイルスデイヴィスの「So what」です。拍からわずかにズレることによって、スイングの独特のリズムが生まれています。

シャッフル(4/4拍子)

スティーヴィー・ワンダーの名曲「Isn’t she lovely」です。12/8的な3分割に乗って、パキパキとしたリズムになっています。

7拍子(7/8拍子)

プロコフィエフの「ソナタ7番」より第3楽章です。戦時中に書かれた6,7,8番は戦争ソナタとも呼ばれています。2+3+2の7拍子になっています。

変拍子

ストラヴィンスキーの「兵士の物語」より「悪魔のダンス」です。目まぐるしくリズムが変わりますが、音色や和声が小気味よく、何とも言えない独特の情緒があります。