最も恐怖を煽られるBGMというと、何を思い浮かべますか?ホラー映画やゲームなどで恐怖体験をするときのBGMや、お化け屋敷の背景で流れている音楽を思い浮かべるかもしれません。

しかし、やはり最も怖いのは無音ではないでしょうか。特にいままで平和なBGMが流れていた時に、突如として訪れる無音の効果は絶大です。

無音という表現は、ときに大音量で鳴る音よりも存在感がある表現となります。

前置きが長くなってしまいましたが、そんな無音を作り出す大事な記号、休符について見ていきましょう。

休符も音符と並ぶ大切な表現

作曲という行為は「何もないところに音を配置していく」という、見方をすることができます。実際に五線譜を前にしたとき、何も鳴っていない時間を音で埋めていこう、という意識になることがあります。

これ自体を否定するつもりはありませんが、実際には、何も鳴っていない時間を作ることも作曲上の大切な表現です。音楽が無い部分を休符にするのではなく、休符も作曲していく、という考え方は魅力的です。

後者のほうが積極的に無音を作っていることがわかるでしょうか。白いキャンバスに絵を描くとしたら、前者は絵具を塗らなかったところはキャンバスの下地が見えている状態、後者は白い背景をしっかり描いている状態の相当するといえるでしょう。

これはどちらが良いというわけではなく、休符には種類があるということを示唆しています。

3種類の休符

私は、休符を3種類に分けて考えています。

①息を吸う休符

②音を切る(無音を表現する)休符

③休む休符

それぞれ見ていきましょう。

①息を吸う休符

声を出すときには、まずは息を吸わなければいけません。息を吸うときに、音自体は鳴っていませんが、テンポと緊張感を決める大切な瞬間となります。このタイプの休符で真っ先に思い浮かぶのは、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の冒頭です。世界で一番有名な「交響曲の冒頭部分」だと思いますが、まさにそれが八分休符なのですね。もしかしたら、世界で一番聞かれた八分休符かもしれません。

ベートーヴェン「交響曲第五番」より、1楽章冒頭

この休符をどのように表現するかで、曲全体が決まってしまうと言っても良いほど大切な箇所です。

息を吸うための休符は休符の表現の中でも最も難しい部類となります。管楽器や歌の場合はともかく、ピアノやヴァイオリンといった息で音を出すわけではない楽器の場合、この休符を素通りしてしまうことのないように注意する必要があります。しっかりこの休符で、これから始まる音楽の性格を表現しましょう。

②音を切る(無音を表現する)休符

冒頭で、無音の恐怖感という話をしましたが、無音は時にどんなに大きい音よりも強烈な表現となることがあります。楽器で音を鳴らすとき、音が鳴る瞬間、鳴っている間、そして、音が止まる時の3つの要素が非常に重要になります。この音の止め方や、無音になった瞬間を表現する休符を見てみましょう。

ショパン「ノクターン9番」より

これは極端な例ではありますが、「f(強く)」「stressto(緊迫して)」と書かれたところから突如として訪れる十六分休符の効果は絶大です。しっかりこの休符を演奏することが大切です。

なお、緑で囲っていない右手の休符は、①息を吸うための休符となっており、まったく役割が違うことがわかります。

③休む休符

西洋音楽は和声(ハーモニー)とともに発展してきました。和声があるということは、多くの人が同時に演奏することで、一つの音楽を作り上げているということです。ピアノやヴァイオリンは1台で演奏することもありますが、それはあたかも多くの人が演奏しているかのように一人で演奏するわけですね。

ショパン「練習曲集第2巻7番」より

左手のソロで始まり、右手はずっと休んでいます。まるで左手と右手が2人の人物で、左手が朗々と歌うのをじっと聞いているかのような休符です。とはいえ、休符があるということは、音楽に参加しているということです。この左手の旋律を受け継いで、次の小節の右手の伴奏を演奏するということになります。

いろんな休符を眺めてみよう

ここまで休符について語ってきましたが、休符にはいろいろな種類があるのをご存知ですか?

64分休符までは見かけることがあります

小節休符は、その小節を全て休むという意味の記号で、何拍子であっても、小節の真ん中に書くことでその小節をずっと休みにすることができます。全休符とほとんど区別されずに使われますが、全休符は全音符分休むという意味で、実際には異なる記号です。

二分休符は二分音符分休むという意味の記号で、その拍が始まるところに書きます。

なお、休符の数字は普通漢数字を使います。ただし、三十二分休符などとなってしまうと読みづらいため、場合に応じて算用数字を使ってもOKです。

ところで、十六分休符は、二つ枝がありますが、これは第2間と第3間に書くのが正式です。手書きのときに第3間と第4間(本来の一つ上)に枝を書きたくなるかもしれませんが、正式な位置においたほうが楽譜がスッキリします。

四全休符はほとんど見かけません

全休符は先ほど説明した通り、全音符分休む記号です。

二全休符は、全音符2つ分休む記号です。4/2拍子のようなときには、小節休符をこちらの記号にすることがあります。

パート譜によく登場します

マルチレスト(長休符)とは、まとまった小節の間休み続けることをあらわす記号です。オーケストラで各パートに配られるパート譜にはよく登場します。目で追うのではなく、頭の中で数をかぞえることになります。

休符だけの音楽

世の中には変わったことを考える人もいるもので、休符のみで音楽を作った人もいます。有名なのはジョン・ケージの「4分33秒」ですね。(厳密には休符は書かれていません)

「音楽とは何か」に迫る現代音楽の世界

この曲は1952年に作曲されました。一方で、エルヴィン・シュルホフは1919年に作曲した「5つのピトレスケ」より「第3番:未来へ」も、休符のみで書かれた楽譜です。

休符のみといってもなかなかにぎやかな曲ですが、実際に楽譜を見てみましょう。

シュルホフ「5つのピトレスケ」より第3番「未来へ」

背景には、既存の芸術観を破壊する運動ダダイズム(1916年頃~)があります。音楽の世界にも波及し、このような曲ができたと考えられます。譜面の見た目の面白さという意味も強いですが、休符の表現力に注目したものかもしれません。

なお、テンポ記号の「Zeitmaß-zeitlos.」は「時代を超越した」という意味で、その下のイタリア語「tutto il canzone con…」は、「この歌は、常に、最後まで、情熱の感傷を自由に持って」という意味になります。これらの休符の羅列にも、3種類の休符を感じてみると楽しいかもしれません。