みなさんは楽器の練習にメトロノームを使っていますか?メトロノームの役割は主に3つです。

・基準の速さを作り、メトロノームに合わせて練習する

・演奏のテンポがぶれないようにする

・作曲者の意図したテンポを知る

同じように見えて、全く違う向き合い方をする必要があります。基礎的な使い方から、上級者向けの使い方まで、メトロノームの使い方を大公開していきます!

メトロノームとは

メトロノームとは一定の間隔で音を刻み続ける道具のことです。1816年にドイツのメルツェルが振り子式のメトロノームの特許を取得し、それ以来メトロームは音楽家にとって必須のものとなるくらい爆発的に普及しました。ベートーヴェンはメルツェルにメトロノームを贈られてからそれを愛用し、「メルツェルのメトロノーム」の略で「M.M.」と書いて楽譜にテンポを表示しました。余談ですが、ベートーヴェンの指定したテンポは演奏不可能なほど速いこともあり、このメトロノームは誤差が大きかったのではないかという説があります。

メトロノームは数によってテンポを表します。この数は1分間に何回音を刻むか、を指します。

60ならちょうど1秒刻み、120なら倍速の0.5秒刻み、となります。人間が1拍として感じられるのは大体0.3秒刻み(テンポ200)から1.5秒刻み(テンポ40)程度ですから、この間を刻むことができるのが一般的なメトロノームです。

メトロノームの種類

主にメトロノームには3つの種類があります。振り子式・電子式・アプリです。それぞれ長短がありますので、見ていきましょう。

振り子式

振り子式のメトロノームは、ゼンマイを巻くことで、少しずつ振り子に力を掛けて長い間(5~15分)音を鳴らし続けることが可能です。振り子には可動式のおもりがついており、このおもりの位置を動かすことによって、テンポを設定することができます。設定できるテンポには標準的な規格があり、40~60までは2刻み、60から72までは3刻み、72から120までは4刻み、120から144までは6刻み、144から208までが8刻みとなっています。

また、標準的な振り子式のメトロノームは、数拍おきに鐘のような金属音を鳴らすことができ、0(OFF)、2、3、4、6拍ずつに設定できます。

長所

・見た目がレトロでカッコいい。

・音がよく通り、大音量の演奏でもはっきりと聞くことができる。

・振り子の動きが重力に沿ったものであり、視覚的に拍と拍の間の力関係を感じ取ることができる。

・テンポの設定を簡単にすることができる。

短所

・誤差が大きい。とくに、少しでも水平でなかったり、ピアノの上など振動がある場所に置くと大きく狂ってしまう。

・1単位の細かい設定ができない。

・音量の調整ができない

特に誤差はかなり大きな欠点で、ゼンマイのゆるみ具合や、機械の摩耗、水平かどうかなどで、はっきりとわかるくらいズレることがあります。クラシック音楽の場合は、振り子の見た目が音楽と一致することもあり、長所を活かすことができますが、ロック音楽の場合はこの誤差が致命的になってしまいます。

電子式

ポケットに入るサイズの小型メトロノームは、耐久力もあり置く場所も選ばないため便利です。チューナーが付属しているものもあり、ギタリストにとっては必須のものといえるでしょう。ヘッドホンで聞くこともできるため、夜に練習するときにも役に立ちます。メトロノームに特化しているため、誤差も少ないのが特徴です。

長所

・持ち運びが容易で、耐久力がある

・ヘッドホンで聞くことができ、音量も変更できる

・チューナーなど便利な機能が付属している

・誤差が少ない(±0.5%が一般的)

短所

・視覚的に拍が分かりづらい

・音色が演奏に埋もれやすい

・電池の交換が必要

短所はメーカー側もわかっていますので、画面に振り子を表示したり、拍の音色を変えられるタイプの電子メトロノームもあります。また、電池の交換も数か月に一回程度で良いので、それほど気にはならないでしょう。

アプリ

メトロノームはスマートフォンの無料アプリとしてたくさん配布されています。また、有料の高機能なメトロノームもありますが、それでも電子式よりは安いです。常に持ち歩いているスマートフォンにメトロノームがついていれば持ち運びは何よりも楽になりますし、高機能なメトロノームアプリは、途中で拍子やテンポを変えるなど、どんな曲にも対応できるようになっています。

長所

・安価(ほとんどのアプリが無料)

・持ち運びやすい

・プログラミングできる

短所

・スマートフォンのスペックによっては誤差が大きい

・通知音などに邪魔されることがある

・充電を気に掛ける必要がある

プログラミングは、たとえば、4/4拍子と3/8拍子を交互に繰り返すような複雑な拍子だったり、だんだん遅くしていく・だんだんは速くしていく、などをあらかじめ設定しておくことです。使いこなすにはメトロノーム自身の練習が必要ですが、非常に便利です。ただ、スマートフォンには他にも色々なアプリが入っていますので、バックグラウンドで動いているアプリの影響だったり、通信の影響を受けることがあります。絶対にトラブルを起こしたくないライブなどで使用するのはおすすめできません。

結局どのメトロノームを選ぶ?

筆者のお勧めは、まずはアプリです。Apple storeやGoogle playで「メトロノーム」と検索して、上位3つくらいの中からデザインが好みのものを選べばまず間違いはないでしょう。そのうえで、クラシック音楽の方で、メトロノームの雰囲気も大切にしたい方は振り子式、ロックバンドの方や、正確なチューナーも欲しいという方は電子式を購入するのがおすすめです。

メトロノームを使った練習

いよいよメトロノームを使って楽曲を練習してみましょう。メトロノームが役に立つのは、指使いや弾き方などが大体決まって音が身体に入り始めた時から、最後までよどみなく弾けるようになり完成まであと一歩、という段階までです。まだ音が何かわかっていない時や、完成に向けての最終調整ではメトロノームを使わないほうが良いでしょう。

テンポアップ

最も基本的な使い方はテンポアップです。実際の曲のテンポが四分音符=120だとして、四分音符=50くらいならなんとか弾けるかな、という状況だったとします。このときは、八分音符=60程度(実際の1/4の速度)からスタートして、ミスせず余裕を持って弾けるかどうかを確かめます。もし弾けなかったら、さらにゆっくり、八分音符=40でも良いかもしれません。余裕を持って弾けるテンポから、1ずつ数値を上げて行きます。八分音符=120まで来たら、これと同じ速さの四分音符=60に設定し、また1ずつ数値を上げていきます。

忍者は麻の種をまき、毎日成長する麻を飛び越えたら屋根をも飛び越せるようになる、と言いますが、それと同じことですね。

ただし、1上がっただけで急に難しくなる部分に遭遇することがあります。その時は難しくなったところを、さらにテンポを上げて演奏するにはどのような身体の使い方をすればよいか研究するところに戻ることも大切です。

メトロノームと合わせて演奏

メトロノームと合わせて演奏する練習は、注意が必要です。最悪の場合逆効果になってしまうことがあります。この練習をするときは、以下の点に気を付けましょう。

・無理のないテンポにする

・弾き始める前に1小節分しっかりカウントする

・もしズレてしまったら、演奏を止め、数小節前から弾きなおす。このときもしっかり1小節分カウントしてから演奏を始める

メトロノームは常に一定の速度で動いていますが、人間には準備が必要です。しっかり、1小節分カウントして、身体をテンポに同期させてから演奏を始めましょう。

また、一度ズレてしまったときに、テンポを変えてメトロノームに追いつこう、追いつかれよう、とするのは、意図的に正しいテンポから外れてしまっているため、本末転倒です。メトロノームは人と違い、合わせようとはしてくれませんので、ズレてしまったなら、一旦演奏を止めて、また弾きなおしましょう。

刻みを半分に/倍に

四分音符=120の曲であれば、二分音符=60にしたり、八分音符=240にして練習することができます。

大まかにとると、メトロノームの打点と打点の間に、リズムが持つアクセントを感じられるようになります。これは独特な感覚なのでぜひ実際に試してみてください。さらに全音符=30、2小節=15のように大きく取るのは、非常に難しいですが、良い練習になります。

逆に細かくすると、身体の中に「パルス」を入れる練習になり、長い音価の音でもリズムが崩れにくくなります。細かくするとメトロノームに合わせていくのが難しくなりますが、リラックスして練習することが大切です。音に合わせようと身構えてしまうと、どうしてもメトロノームから遅れていってしまいます。

メトロノームを裏打ちで

通常メトロノームは拍点に合わせますが、そうではなく拍と拍の間にメトロノームを打つようにします。まず演奏開始から非常に難しいですが、できるとメトロノームの打点と打点の間に拍を感じるようになってきます。非常に強いリズム感が必要になり、上級者にとって良い練習になります。

演奏中に使うメトロノーム

広い会場での演奏や、野外ライブ、音響設備の問題などで、耳で楽器の音を聞いただけでは他のメンバーと合わせるのが難しい場合があります。音の速さは340m/sですから、50mの奥行きがある会場の反射音を聞くと、0.3秒ほどズレて聞こえることになります。そのようなときは、同期されたクリック音を全員がイヤホンで聞くという方法を取ると便利です。また、録音をする時などは何度も取り直し、上手くいった部分を繋げるのが一般的で、そのときには少しのテンポの変化も気になりますから、クリック音に合わせると便利です。クリック音に合わせると人間らしいグルーヴが無くなるのではないか?と思われるかもしれませんが、グルーヴは打点と打点の間の演奏にも現れてきますので、問題ありません。そしてあくまでクリックはガイドとして聞くにとどめ、リラックスして演奏することが大切です。

作曲に使うメトロノーム表記

自分が作曲したときに、どのように演奏者にテンポを伝えるのか、というのは難しい問題です。そこで、メトロノームの数値を書いておけば、正確に演奏者にテンポを伝えることができます。この時は、メトロノームアプリに標準搭載されているTAP機能を使いましょう。TAPと書かれた部分を規則的に叩くと、そのテンポがいくつなのかを表示してくれます。

テンポの表示方法は作曲者の思想が現れるところでもあります。正確にテンポを書くよりかは、演奏者それぞれにとって心地よいテンポで演奏してほしいという場合もあれば、意味があって正確にこのテンポで演奏してほしい!という場合もあるでしょう。作曲者が理想のテンポはこれだけど自由に変えてよい、というときはca.(「チルカ」と読み「だいたい」の意味)と書くことがあります。また、テンポが揺れるような曲では、♩=72~92のように、下限と上限のテンポを書いておくこともあります。

20世紀~21世紀にかけて活躍したハンガリーの作曲家ジョルジュ・リゲティによる『100台のメトロノームのための詩的交響曲』です。メトロノームを楽器として使った珍しい曲ですが、徐々に浮かび上がる複雑なリズムが面白く、人気の演目となっています。