レクイエムという言葉をご存知でしょうか。日本語では「鎮魂曲」あるいは「死者のためのミサ」と訳されます。成立の背景や、名曲を紹介しつつレクイエムの解説をします。

レクイエムの語源

レクイエムはラテン語で「Requiem」と書き、「安息を」という意味です。

キリスト教には様々な儀式(ミサ)がありますが、その日にどのようなミサをするのかを説明する入祭唱というものがあります。「死者のためのミサ」の入祭唱の始めの文章は次のようなものです。

Requiem aeternam dona eis, Domine,

Et lux perpetua luceat eis.

これはラテン語でちんぷんかんぷんに思われるかもしれませんが、実はほとんどの単語に、英語にも同じ語源を持つ単語があり、意外にも直感的に分かったりします。

ラテン語:英語

aeternam「永遠の」 : eternal「永遠の」

dona「与える」:donate「寄付する」

Domine「主」:dominate「支配する」

lux「光」: luxe「壮麗」

perpetua「永久の」:perpetual「永久の」

luceat「照らす」:illuminate「照らす」

そして、Requiemが「安息を」、eisが英語のthem「彼らに」、etが英語のand「そして~」に当たる言葉だということが分かれば、大体直感で和訳できてしまいますね。

主よ、永遠の安息を彼らに与えてください

そして、彼らを永久の光で照らしてください

この入祭唱の始めの単語「Requiem」が音楽のタイトルにそのまま使われています。

レクイエムの構成

レクイエムは儀式に使われる音楽ですから、構成も伝統に則ったものとなっています。とはいえ、最初から最後まで厳密に決まっているわけではなく、略式的に行うこともあります。また、宗派や時代によっても様々な違いがあります。仏教の儀式に慣れている日本人にとってもこの感覚は理解しやすいかと思います。

そこで、重要な曲目を挙げます。レクイエムを聴く際は以下をおさえておくと良いでしょう。

入祭唱 Introitus 「永遠の安らぎを」

これからどのようなミサを行うのかを歌います。

キリエ Kyrie 「主よ、憐みたまえ」

Kyrie eleison, Christe eleison, Kyrie eleisonと歌います。三回歌うことによって、三位一体を表します。

サンクトゥス Sanctus 「聖なるかな」

神の偉大さと神への感謝を歌います。最後にホザンナ(「救って下さい」のヘブライ語)を歌うのが特徴です。

アニュスデイ Agnus Dei 「神の子羊」

神の子羊はイエスを指します。イエスと神に対して、平和を祈る歌です。

また、レクイエムではキリエとサンクトゥスの間に、セクエンツィア(続唱)と呼ばれる複数からなる曲が挟まれる場合があります。カトリック教会のみで用いられ、「最後の審判」について語られます。とくに重要なのは以下の通りです。

ディエス・イレ Dies irae 「怒りの日」

最後の審判の日が訪れる預言について歌います。

レコルダーレ Recordare 「思い出したまえ」

最後の審判の際に、救われることを祈ります。

ラクリモサ Lacrimosa 「涙の日」

罪を背負った者への許しを祈ります。

「最後の審判」は7本のラッパによって世界の終焉が告げられたのち、生前の行いによって、永遠の命を与えられか、地獄に堕とされるかを審判されることです。この部分は音楽上も激しさを増すことになります。

レクイエムの編成

「死者のためのミサ」の原型はグレゴリオ聖歌からきていますが、現代でレクイエムというと、オーケストラと合唱というイメージがあります。

スタイルによってはさらにオルガンが入ることもあり、非常にスケールの大きな曲となるのが普通です。

レクイエムは短いものでも30分以上あるのが普通ですから、演奏会で扱う場合は、レクイエム一曲となるでしょう。

作曲家にとってはそれほど気合の入った作品であり、人生を掛けて書く曲という意識があります。レクイエムを書いている作曲家は少なくありませんが、それでもほとんどは生涯で1曲しか残していません。

一方で、短縮され一部分だけが取り出されたレクイエムや、器楽のみによるレクイエムなども存在します。

代表曲

レクイエムは作曲家が人生をかけて書くような作品で内容も重いため、聴くのにもそれなりの覚悟が必要です。ここでは名曲と呼ばれるいくつかのレクイエムを紹介します。

三大レクイエム

レクイエムについて語る際に絶対はずせないのは三大レクイエムです。

モーツァルト:レクイエム

灰色の使者に作曲を依頼され、死期を悟ったモーツァルトが自分自身のためにレクイエムを書いた・・・などという伝説的なエピソードも残されています。

モーツァルトは結局このレクイエムを完成させることはできず、モーツァルトの弟子であるジュースマイヤーが残りの大部分を完成させました。ジュースマイヤーはモーツァルトの補筆完成という大業を任されたことになりますが、現在に至るまで全曲通してモーツァルトの最高傑作と呼ばれるほどの評価を得続けているほど完成度の高いものとなっています。

ヴェルディ:レクイエム

ヴェルディはイタリアオペラの作曲家で「椿姫」や「アイーダ」といった数多くの傑作オペラを生み出しています。ヴェルディは敬愛する小説家マンゾーニへの追悼としてこのレクイエムを作曲しました。非常に激しく、時に恐怖さえも感じさせるような「怒りの日」(動画9:33~)は一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

フォーレ:レクイエム

上記二つのレクイエムに親しんでいる方からはかなり異質に聞こえる作品となっています。「怒りの日」に代表されるセクエンツィアの激しい部分は全て省略され、全体を通して静謐さが支配し、死に対する悲しみや恐怖という感情は一切みられず、どちらかというと天上の美しさを描いたような曲想になっています。編成も通常のオーケストラとは異なっており、特異なレクイエムです。

その他のレクイエム

三大レクイエムのほかにも特筆すべきレクイエムを挙げてみましょう。

ブラームス:ドイツ・レクイエム

レクイエムは通常ラテン語の典礼文に沿って書かれますが、ルター派信徒であったブラームスはドイツ語によるレクイエムを作曲します。バッハの影響を強く受けていますが、ブラームスらしい重厚な響きも特徴的です。

シュニトケ:レクイエム

シュニトケはソ連人・ユダヤ人・ドイツ人という要素を持つ複雑な環境に生まれた作曲家で、「多様式」というジャンルを創造しこれを発展させました。多様式とは、様々なジャンルの音楽を(無理やりにでも)融合させることです。このレクイエムには、電子ギターやドラムといったポップスに使う楽器を用いていながら、グレゴリオ聖歌を彷彿とさせる旋律や現代音楽特有の和声が使われています。