「アナリーゼ」という言葉を聞いたことはありますか?日本語では「楽曲分析」と言います。「おそらく音楽を専門的に勉強する上では大切なんだろうなあ」と漠然とした印象を持つくらいの方がほとんどだと思いますが、音楽を趣味にしている方でもアナリーゼで楽しむことができます。この記事では、アナリーゼの初歩の初歩、第一歩を踏み出してみましょう。

なお、ここではクラシック音楽へのアナリーゼを中心に見ていくことにします。

アナリーゼの目的

まずアナリーゼの方法に入る前に、アナリーゼの目的についてはっきりさせておきましょう。ここは人によって様々だと思いますが、それによってアナリーゼの仕方も少しずつ変わってくるからです。

曲をもっと好きになる

みなさんには好きな曲があると思いますが、ただ聞くだけでなくもっと知ってみたい!と思ったことはありませんか?大好きな曲があったら、曲名やアーティスト名で検索をかけて、関連する他の曲を聞いてみたり、作曲の背景を検索してみたり、アーティストの人となりを検索してみたり、逸話を調べてみたり・・・、そのようにしたくなることも多いでしょう。

その背景を検索する、というのがすでにアナリーゼの第一歩です!

曲を暗譜する

発表会や演奏会で曲を披露する際に、楽譜を見ながら弾いてもよいのですが、暗譜をするとお客さんからの見た目もすっきりしますし、視線や身体の使い方がより自由になります。譜めくりで音楽が中断したりする恐れもなく、できることなら暗譜して演奏していきたいものです。

とはいえ、10分を超えるような長い曲になってくると、同じようなフレーズがあってどこを弾いているのかわからなくなったり、間違った方に進んでしまい無限ループしてしまったり、となることがあります。このときに、全体の構成だったり、似たフレーズの差異を確認しておくと、暗譜の助けとなります。

他の人に曲を紹介する

「この曲が好きなんだ!聞いてみて!」といって、曲名だけ渡してもその後実際に聞いてもらうというのはなかなか難しいものですし、結局魅力を伝えることができなければ、興味をもってもらえません。アナリーゼは、「曲の魅力を言語化する」という力を持っています。魅力をすっきり言語化できれば、人に曲の魅力を紹介することもしやすいですね。

また演奏家は、演奏会のプログラムに解説文を書く機会があると思いますが、そのようなときにもとても役に立ちます。

必要な知識

分析というだけあって、知識はあればあるに越したことはありません。特に、楽譜は読めたほうが便利です。ただ、楽譜に慣れていなくても、アナリーゼは可能です!聞くだけでアナリーゼする方法も存在します。しかし、これは逆に難しいので、楽譜に少しずつ慣れていき、できるところから分析を進めていきましょう。

以下のブログでは、分析に役に立つ知識をご紹介しています。

【5分で分かる】西洋音楽史を知ろう

【コードの理解に必須!】インタール(音程)とは

調ってなに? 〜音楽の”超” 基礎概念をわかりやすく〜

アナリーゼ三原則

筆者がアナリーゼする時に3つの大原則があります。それをご紹介します。

小節番号を書く

簡単なことのようで、これが最も大切です。小節番号は分析の第一歩でありながら、分析そのものになっています。

小節番号の数え方にはルールがあります。

①アウフタクトは数えない

②リピートした小節は数えない

③不完全な小節は合わせて1小節と数える

数え方を間違ってしまうと、説明するときに伝わらなくなってしまうことがあるので気を付けましょう。

また、各小節全てに小節番号を振ると大変になってしまいますから、2段目以降から、格段の左端のみに書けばOKです。

アナリーゼは言語化することが目的の一つですから、小節番号は非常に役に立ちますし、客観的です。

「第二主題の3つめのフレーズのはじめの音」というより「45小節の1拍目の音」と言ったほうが誤解なく伝わります。

概略→詳細

曲の始めから細かく見ていくと、いつまでたっても分析が終わらず、またその分量も肥大化してしまいます。

ブラームスOp.118-2「間奏曲」の冒頭の分析。こんなに細かいと何がなんだかわかりません

分析が細かすぎると、情報が増えすぎてしまって、大切な情報を見落としてしまうことがあります。

なるべく視野を大きく持って、概略を分析した後、だんだんと細かく見ていきましょう。

曲の好きなところを見つける

自分にとってつまらないと思う曲の分析はいくらやったってつまらないですし、面白い発見もしづらいものです。やはり、分析は好きな曲に対して行いましょう。なぜこの曲が好きなのか、なぜこの音が好きなのか、そのようなことを言語化していく作業こそがアナリーゼです。

この曲のたった一つのこの音が好き!というものでも構いません。その1音に至り、その1音の余韻を大切にする作曲家の構想を知ることができたら、1音のみの分析でも曲全体を考えることができるようになります。

2通りの視点から分析を進めよう

いよいよ分析をしてみましょう。ここでは、シューマンの名曲「トロイメライ」を例に分析の入口に立ってみたいと思います。

はじめからいきなり楽譜にとりかかろうとしないで、まずは2通りの視点の分析を大切にします。それは、「楽曲」と「背景」です。「楽曲」とは実際にどのような音が鳴っているか、ということです。そして「背景」とは、どの時代に誰がどういう目的で書いているか、ということです。ここでも、概略→詳細として見ていくことを忘れないようにしましょう。

見ただけでわかること、常識的に知っていることから考えて、だんだんと細かく見つつ深めていきましょう。これ以上は深められない、と思ったらそこまでで止めて構いません。その後はインターネットで検索してみたり、いろんな方の分析を参考にしたりしながら、少しずつ自分で分析できる範囲を広げていくことが大切です。

アナリーゼでもインスピレーションを大切にする

曲を書くとき、曲を演奏するときにインスピレーションが大切なのはもちろんですが、アナリーゼをするときにもインスピレーションは大切にしましょう。たとえば、上のトロイメライの楽譜をみてみると、各段それぞれはじめの小節は見た目が良く似ています。

しかしよく見てみると、全く同じなのは1-2小節目と、17-18小節目だけですね。

また、9-10小節目と13-14小節目は、ただ移調しているだけなのかな?とおもいきや、13-14小節目にはクレッシェンドがありません。楽譜を作った人の書き忘れかもしれないので、他の出版社や初版、できれば自筆譜にあたって確かめてみたいですね。

これらはアナリーゼする人たちが全員同じ結論にたどり着くとは限りません。ひとつの曲の分析でも、答えが一つに定まっているとは限らないのです。

自分なりの答えを演奏にすれば、新解釈の驚きと感動をもたらす演奏ができるかもしれません。

曲と深いところまで触れ合う感覚を味わえる、アナリーゼの面白さにぜひ一度触れていただければ、と思います。